能登半島地震に際しては、甚大なご被害が出ているとの報に際し、準備委員会一同皆様の安否を案じております。このたび犠牲になられた多くの方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、ご被災された方々、ご関係の皆様に心よりお見舞い申し上げます。今現在なお、多くの皆様が少しでも安全で安心な状況となりますよう願っております。また、最前線で支援にあたられている皆様のご健康とご安寧を心よりお祈り申し上げます。また、それ以外でも多くのご苦悩、ご苦労を抱えていらっしゃる方々も多いと存じます。そのような中でこうした大会をなんとか開催できますことへのご協力に心より感謝申し上げます。
第6回大会は「高齢者の心理支援――多様性の中での専門性」をテーマとしています。支援者の専門性やアイデンティティとは、支援の枠組みと知識や技能との相互作用でもあります。心理支援に最適な場で働く人々が十分に、当該の心理支援者を理解し、支援者個々の心理支援者の専門的な知識と技能が十分に発揮できており、それが高齢者やとりまく人々に十分に役立つのであれば、理想的なことでしょう。また、心理支援者が、高齢者やとりまく人々を理解し、それに最適な支援を提供することができ、その提供が十分であればどれほど素晴らしいことでしょうか。
現代の高齢者像ととりまく人々に抱くとらわれたイメージによって、支援の対象となる人への向き合い方は、ずいぶんと左右されることがあるのではないでしょうか。高齢者をとりまく支援者が直面する場は、ある見方では複雑な様相にみえます。時代の変遷もあります。社会の発展の結果という肯定的な見方もできますが、相互無理解によるすれ違いの課題もなかにはあるように思います。多くの課題は、なんらかの心理的影響による盲点の発生などにも関わっています。また、心理支援の専門的な営みを心理職の活動する現場へ伝達していく情報の質、伝える言葉、目にする物事、活動、職種間の競合による障壁の存在による無理解の課題もそこには当然生じます。
他方で私たちは、学会への参加者という立場以外にも社会で生きる人、すなわち高齢者に関わる人々としての当事者的な側面を持ちえます。高齢者やとりまく人々、心理支援者が生きる社会は、時間が経過し、複雑化・多様化しているようにみえることがあります。例えば、高齢者のコホート、家族形態が変化しています。ある意味、体験というものは限定されているため、盲点を抱えることもあります。社会問題としてのエイジズム、障害者への差別などは、社会における集団の課題でもあり、気づきを得ることが難しいところに位置しています。そのうえ、世代間の価値観の乖離、家族機能の喪失、合理化に傾きつつある社会の影響の中で高齢者とそれをとりまく人々も、多忙化のなかで急ぎ学習しながら最大限のことを現状で発揮している果てに生じるなんらかの問題として象徴されることがあります。
社会の場での無理解という認識の課題は、創造的な知識、実践上の工夫やアイデアで解決の方向に少しは向かうことができるのではないでしょうか。高齢者をとりまく課題が混迷を深めると、ほかの世代の人々のQOLを低下させる面もあり、反対に十分に対応することで、新しい気づきが得られQOLが格段に向上することがあります。すでに自然(じねん)の学習を得た支援者によって他の世代の暮らしを含む生業が良心的に支えられていることもあります。教育の場や社会へのアイデアの提供や発信、ほかの世代が盲点となっていることへの気づきの提供などが、私たちがすっかりと見失ってしまっているところから掘り出されることもあります。さまざまな人の暮らしの営みや資料などは身近な高齢者世代からすでに多くが提供されているものの、急ぎ足で歩いているうちに、見過ごしていることもあります。また、偶然で障壁のない交流によって、とらわれのない新しい考え方をいただけることもあります。多世代社会のなかで、世代が分断せずに質の高い地域での教育や交流が、もたらされる機会となり新しい観点を発見できることを願っております。また、心理職の方々や研究・教育に携わる皆様が高齢者支援の光り輝く価値や意味、アイデアを自らの職務の中で見出すことができるよう、交流を通じて新たな発見になればと考えています。
この大会では、高齢者やとりまく人々やその支援を理解するという観点で基調講演、教育講演、シンポジウムを設定しました。基調講演では、高齢者の心を理解する視点の広がりを重視しました。そこで、内的なイメージを大切にするユング心理学から箱庭療法を紹介します。長年、箱庭療法の支援者の指導や心理療法に携わってこられた長坂正文先生をお招きし「箱庭療法と心の風景」と題して講演をいただきます。教育講演では、高齢者・エイジングという視点から、教育の多様な課題についてご教示いただきます。生涯学習と社会老年学の合流した学問領域である教育老年学から「教育老年学からみた現代高齢者と多様な課題」というテーマで、領域の第一人者である堀薫夫先生にご講演いただきます。
高齢者を理解するための多面的な観点からの議論を本大会では重ねることができればと考えています。第6回大会は対面大会と後日オンデマンド配信(配信期間:約3週間)を予定しています。対面で申し込むとオンデマンド配信を視聴することもできます。コロナ禍の状況を見据え、それに合わせての柔軟な方法を考えております。3月頃の名古屋はまだ肌寒い日もありますが、この大会を気に留めていただけましたら幸いです。皆様の参加を心よりお待ちしております。
第6回大会準備委員会 準備委員長
志村 ゆず